プロジェクト

科学技術のリスクコミュニケーション ―新たな課題と展開―

プロジェクトの趣旨

*報告書『科学技術のリスクコミュニケーション―新たな課題と展開―』はしがきより抜粋

2022年2月に始まったウクライナでの戦争は、多数の死傷者や避難者を出すとともに、貿易や金融の混乱、エネルギーや食料価格の高騰などによって、日本を含む世界中の経済に引き続き甚大な影響を及ぼしている。2020年から続く新型コロナウイルス感染症のパンデミックも、人同士の接触の制限や健康への不安が広がることで、感染症による直接の被害にとどまらない影響を引き起こしてきた。エネルギーや食料の安全保障上の危機も、新興感染症が社会に及ぼす広範なインパクトも、つとに警告は発せられていた。しかし、これほど直接的かつ継続的な影響が及ぶことを、あらかじめ具体的に思い描くことのできていた人は決して多くなかったと思う。2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故や、その後も日本列島で相次ぐ災害も、将来の不確実性の影響を的確に見積もり、それに備えることの困難を私たちに突き付けてきた。

災害や疾病など将来の不確実性への対峙が難しいのは、今に始まったことではなく太古からの話である。しかし、現代に固有なのは、問題となる悪影響の多くが人間社会の外からやってくるのではなく、人間が環境や生命に働きかけ、それらを作り変えたり操作したりする行為そのものによって引き起こされている点である。このこと理解するには、気候変動の主な原因が、産業革命以降の化石燃料の大量使用に伴う二酸化炭素の排出である事実を思い起こせば十分であろう。「自然」現象としての性格がより色濃く感じられる災害や感染症も、私たちの生活様式や、社会基盤や制度を含む備えなどの行為の集積により、現れ方が著しく異なる。

このような意味での将来の不確実性、すなわち人間の意思決定やその他の行為に伴って引き起こされる悪影響の可能性こそが、私たちが普段、「リスク」と呼んでいるものである。リスクの多くには科学技術が絡んでいる。そして、いかにして多岐にわたるリスクを把握し見積もり、それらを回避したり低減したりするための対策をとるかは、あらゆるレベルの政府や企業、民間組織にとって、政策の立案や決定・実施、あるいは運営・経営上の本質的課題である。

現代の政府や企業は、こうしたリスクの評価や管理を、直接的な影響の及ぶ利害関係者や、一般の人びととの対話を通じて、信頼関係を築きながら行うことも要請されている。この対話や協働の営みが「リスクコミュニケーション」である。その重要性は数十年前から広く提唱されてきているが、例えば日本では、東日本大震災や福島第一原発事故、新型コロナのパンデミックの経験を振り返れば明らかなように、現実のリスクへの対応において十全な形で取り組まれてきたとは言いがたい。そこで本報告書では、日本における国政課題の一つとして、「科学技術のリスクコミュニケーション」の実践・研究の到達点や課題、新たな展開の可能性を、第一線で活動する研究者が分担してレビューすることとした。

執筆に先立つ2022年8月~9月、編者である代表従事者及び16人の分担従事者(分担執筆者)が6回の研究会を行い、調査内容や執筆構想を持ち寄って討議を重ねた。関係の皆様には、調査の計画・実施から研究会への参加、報告書の執筆に至るまで大変お世話になった。厚く御礼を申し上げたい。

本報告書が、リスクコミュニケーションや関連する政策を国会において検討・分析する際の材料として活用されるとともに、より広く日本社会の各方面で、リスクコミュニケーションの在り方が活発に議論されるきっかけとなれば幸いである。

 

結果報告

報告書(2023年3月発行)

「科学技術のリスクコミュニケーション―新たな課題と展開―」(令和4年度 科学技術に関する調査プロジェクト)
国立国会図書館調査及び立法考査局のページに移動します)

標題紙、はしがき、要約、目次、奥付 
第1部 リスクコミュニケーションの新たな課題

第1章 リスクコミュニケーション―今何が課題か―
第2章 科学と政策の間や技術と社会の間のギャップの可視化と橋渡し
第3章 災害リスク・コミュニケーションの新潮流

第2部 科学技術のリスクコミュニケーション概説

第4章 リスクコミュニケーションの基礎 
第5章 科学技術ガバナンスとリスクコミュニケーション 
第6章 リスクコミュニケーションとメディア 

第3部 リスクコミュニケーションの諸相―分野別の動向―

第7章 食品―遺伝子技術を利用した食品を中心として― 
第8章 原子力
第9章 気候変動
第10章 情報技術
第11章 災害

第4部 これからのリスクコミュニケーション―展望のための視座―

第12章 新型コロナウイルス感染症の経験が示す新たな課題
第13章 各国のパンデミック対応に関する比較分析が与える示唆―科学技術社会論の見地から―
第14章 公法システムから見るリスクコミュニケーション
第15章 科学技術のリスクとコミュニケーション人材育成

Chapter Summaries

研究メンバー

代表従事者

三上 直之(北海道大学高等教育推進機構准教授、はしがき・第4章)

分担従事

中谷内 一也(同志社大学心理学部教授、第1章)
岸本 充生(大阪大学データビリティフロンティア機構教授・大阪大学社会技術共創研究センターセンター長、第2章)
矢守 克也(京都大学防災研究所教授、第3章)
標葉 隆馬(大阪大学社会技術共創研究センター准教授、第5章)
田中 幹人(早稲田大学政治経済学術院教授、第6章
吉松 芙美(国立感染症研究所 研究員、第6章
田中 豊(大阪学院大学情報学部教授、第7章)
八木 絵香(大阪大学 CO デザインセンター教授、第8章)
江守 正多(東京大学未来ビジョン研究センター教授、第9章)
朝山 慎一郎(国立環境研究所社会システム領域主任研究員、第9章)
工藤 充(公立はこだて未来大学システム情報科学部メタ学習センター准教授、第10章)
定池 祐季(東北大学災害科学国際研究所助教、第11章)
奈良 由美子(放送大学教養学部教授、第12章)
寿楽 浩太(東京電機大学工学部教授、第13章)
吉良 貴之(愛知大学法学部准教授、第14章)
種村 剛(北海道大学大学院教育推進機構特任教授、第15章)

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本調査は、国立国会図書館調査及び立法考査局による 科学技術に関する調査プロジェクトの一環として、国立国会図書館から委託を受けて実施しました。

2022年度科学技術に関する調査プロジェクト
2022年4月〜2023年3月
https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/document/2023/index.html

活動の様子 一覧

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