レポート

気候市民会議さっぽろ2020 気候市民会議さっぽろ2020報告シンポジウム レポート PART2

第3部 ディスカッション2 日本における気候市民会議の可能性と課題

第3部では、実行委員会のメンバーに加えて、気候市民会議やその参加者を取材した朝日新聞の神田明美記者にもパネリストとしてご参加いただき、今回の試行を踏まえて、日本において気候市民会議の方法を生かす可能性や、その際の課題などについて議論しました。

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パネリスト(所属・肩書きは当時)

  • 佐竹輝洋(札幌市環境局環境都市推進部環境政策課 環境政策担当係長)
  • 有坂美紀(RCE北海道道央圏協議会 事務局長)
  • 久保田学(公益財団法人北海道環境財団 事務局次長)
  • 神田明美(朝日新聞科学医療部記者、気候市民会議を取材)
  • 田村哲樹(名古屋大学大学院教授、気候市民会議実行委員)

進行:八木絵香(大阪大学教授、気候市民会議実行委員・全体司会)

コメント:山中康裕(RCE北海道道央圏協議会副会長、北海道大学大学院教授、気候市民会議アドバイザー会議座長)

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―第2部では気候市民会議さっぽろ2020の結果の分析や読み解き方について議論をしてきました。その中で、このシンポジウムを視聴されている方の中にも、こういった取り組みを実際にやってみたいという方もいらっしゃると思います。そのことも踏まえ、第3部では「ディスカッション2:日本における気候市民会議の可能性と課題」と題して、このような気候市民会議の取り組みについて、どうすれば世の中に広めることができるのかという観点から議論していきたいと思います。


気候市民会議さっぽろ2020の実施をふりかえって

―まずは皆さんから、それぞれのお立場で参加した感想を一言ずついただきたいと思います。

佐竹:札幌市からは市の取り組みに関する情報提供をさせていただき、議論もすべて傍聴いたしました。印象的だったのは、第2部でも情報提供の重要性が挙げられましたが、住宅の選択に 関して、「省エネ住宅を知っていれば選んでいた」という声があったことです。無作為抽出で選ばれた市民の方は、必ずしも気候変動に関心が高いわけではありません。その方々の率直な意見が聞けたのではないかと思っています。また、実際に参加された方々には、気候変動に対する関心を持っていただくことができ、今後は市民の方自らがそれに関する情報収集をすることが期待されます。その意味では、環境教育の効果もあったのではないでしょうか。


有坂:
私たちのRCE北海道道央圏協議会は、様々なステークホルダーの方々から構成される会議体で、気候変動を含め多岐にわたる分野の人たちが関わっています。その中で今回は、アドバイザーを担ってくれる方、参考人になってくれる方に対して協力をお願いするハブのような役割を担いました。私たちは協力機関としてどこでどういったステークホルダーを巻き込めばよいのか、会議実施に至る様々なプロセスに関わりました。ぜひ、この取り組みを全国で進めていってもらいたいと思います。


久保田:
北海道環境財団の久保田です。我々は環境政策における市民参加、対話をいかにして広めることができるかが重要であると考えています。そのために、欧米では活用されてきましたが日本では前例のなかった気候市民会議を、地元の札幌で開催することができました。しかも設計段階から関わらせていただくことができ、本当に感謝しています。自治体の環境政策はおおよそ行政の役割、市民の役割、事業者の役割と整理されており、やるべきことが書かれていますが、市民や事業者の方々はそれをほとんど知らないという話をよく聞きます。その情報提供の手段としてこのような手法は有効であると思います。今回のようなオンライン会議の場合、かなり手間もかかりますが、そこに対する期待もあります。また、今回の会議は環境教育の機会にもなりました。これだけ多くの参考人の方の話をまとまって聞ける機会は、我々でもめったにありません。そのような機会をもっと増やしていきたいと思います。


田村:
名古屋大学の田村です。私は環境が専門ではなく、どちらかというと市民会議を通じた民主主義、政治についての研究をしているので、その観点から感想を述べたいと思います。まず1点目に、オンラインでの開催についてです。元々はオンラインではなかったものが、2カ月で合計4回の開催というかたちに図らずもなったこと。これは面白い可能性を開いたと思っています。このような企画を日本でやる場合、従来の対面形式では土日の2日間や1日での開催になることも多く、いくらレクチャーを受けて勉強をしても、限界があります。今回は、必ずしも深い熟議にはならなかったかもしれませんが、2カ月に渡って複数回開催したことで、レクチャーや議論したことを参加者がそれぞれ反芻して臨むことができました。それが、参加者や主催者の内面の考え方の変化を実は生んだのかもしれません。それは、オンラインが結果的に生んだ意義ではないかと思います。また、今回参加者を札幌市民の方に限りましたが、よりローカルに区切った取り組みが重要という話もありました。環境問題はローカリティを越える部分もあり、それぞれの局所的な取り組みや現象、問題が否応なく境界を超えていきます。そう考えると、札幌以外の方にも、参加の枠を一定数設けた方が良かったかもしれません。そうすればオンラインでのメリットも生かせます。他方、通信環境やオンラインの慣れに参加者の意欲や関心が左右された側面もあると思いました。


神田:
朝日新聞の神田です。今回傍聴・取材をして、参加者の方にも別途お話を伺い、札幌市の佐竹さんや山西さんにもお話を伺って記事を書かせていただきました。その立場から振り返ってみると、地球温暖化の影響はますますひどいことになっているし、2050年にCO2排出量を実質ゼロにするという目標は、札幌市だけでなく、全国に広がり、政府もその目標を立てています。札幌市は2030年に半減させることを掲げていますが、そのためには、かなりのスピードで削減を進めなければなりません。その中で、今回は行政だけが計画を立てるのではなく、市民の方を巻き込んで話してもらう機会になったと思います。すごくよかったと思うのは、情報提供の量と質です。参加者も「そんなことになってるなんて知らなかった」「札幌市がそう言うことやろうとしているのを初めて知った」という方もいました。情報がない中で議論をしていると、事実関係が曖昧になりがちですが、その点が今回はよかったと思います。議論の時間も、熟議という点で課題があるというお話もありましたが、初めての試みという点でよかったと思います。今後、こういった試みが他の自治体に広まってほしいですし、札幌市がこれを受けてどう生かしていくのか注目していきたいと思います。

 


オンライン開催のメリットとデメリットは?

(オンライン開催の様子)

―今日のお話の中で、田村さんと神田さんから、オンラインの場に関して言及していただきました。当日の参考人のレクチャーは、すべてYou Tubeで公開し、誰でも見ることができるようにしてあります。そのようにウェブに上げることで、参加者のみならず、いろいろな方が活用できるかたちにもなっていると思います。オンラインの良さは、先ほど久保田さんにもご指摘いただいたように、あれだけ多様な専門家の方々のレクチャーを一度に受けることができる点にあります。しかも、一人の方が1時間講演する形式ではなく、様々な方が多角的にインプットするために15分ずつレクチャーしていただきました。これはオンラインだとお願いできますが、15分のために北海道に来てほしいとは言えません。そのあたりはオンラインの良さだと思います。一方で、限界もあったと思います。そのようなオンライン開催のメリット・デメリットについて、ご意見を伺いたいと思います。

有坂:今回はメリットの方が大きかったと感じました。ディスカッションをする上では直接対面でのやり取りは重要ですが、専門家の方は全国の各大学や研究機関にいらっしゃり、15分お話をするためだけに北海道には来てもらうのは時間も予算もかかります。今回は札幌のような地方都市での開催でしたが、オンラインでの開催が可能だったことで首都圏で議論されるような内容でも実現しやすかったと思います。今後いろんな場所で気候市民会議が開催される場合、傍聴できる可能性もあると思いました。

―本当はもっとたくさんの人に応募・参加してもらいたかった中で、札幌市経由での募集に対する応募は、想定よりも少ない結果となりました。それはオンライン開催がその要因なのか、どう考えたらよいのでしょうか。

佐竹:今回は、住民基本台帳から無作為抽出をして3,000人に案内を発送しました。札幌市でも、以前、対面の場で、無作為抽出により計画策定のための意見を伺うワークショップを実施したことがあります。そのときは同じく、3,000人に送って約100人の応募がありました。今回48人の応募にとどまったのは、オンラインの壁や4日間すべてに参加するというハードルもあったのではないかと思います。

久保田:私もデメリットよりもメリットの方がはるかに上回ったのではないかと思います。本日、北海道会場の対面の場にいる実行委員の方は、札幌の三上先生だけです。それで、これだけ最先端の人が集まって実験的なことができたのは、すごいことだと思います。一方、応募者が少なかったのはIT環境の問題もあると思います。実際の会議は、PCではなくスマホで視聴された方もいましたが、レクチャーの資料を見るのは大変かもしれません。また、オンラインの通信環境におけるリスクマネジメントは大変だと感じました。

神田:メリットとデメリットの両方があったと思いますし、今後オンラインで開催する場合もそれは残ると思いました。参考人のレクチャーはオンラインで聞いてもよいと思いましたが、参加される方はできれば1回目は集まってもらい、2回目以降はオンラインに移りたい人もいれば、会場に来る人もいる、といったやり方もあると思いました。やはりリアルとオンラインの差として雑談などができないのは大きいと思います。少なくとも1回目はそういったことができるとよいのかもしれません。

―一般論として、顔見知りだとオンラインでも率直な意見交換がしやすく、初対面だとスピード感が落ちると言われています。対面かオンラインかではなく、ハイブリッドでどこにどの要素を組み込むのかという話になるのではないでしょうか。例えば対面で行う場合でも参考人レクチャーだけはすべてオンラインで実施することも考えられます。今回のノウハウを使って新しいかたちが考えられればよいと思います。

田村:デメリットについて、家にいながら、いきなり意識を切り替えて会議に参加するのは難しい部分があると思います。メリットは、オンラインで開催することで、参加者の立場や発言の対等性・平等性が確保される可能性があることです。第1部で工藤さんも話されていましたが、ニュアンスや声の大きさ、まわりの雰囲気をつかむには対面の方が良いと思いますが、それをつかんだ人が一気にしゃべってしまうこともあります。オンラインだと、独特の距離感やミュートのオン・オフもあり、おのずと発言を控えるようになりやすい可能性を考えると、対面は発言の量にバイアスが生じるので、案外オンラインの方が対等になるのかもしれません。そう考えると、熟議のフォーラムやミニ・パブリックスにおいて、モデレーター、ファシリテーターは発言者の対等性・平等性を確保する役割を果たしますが、オンラインにおいても同様の役割が期待できます。

―Q&Aの中に「ZoomだけでなくSlackやメッセンジャー等のいろいろな方法を使ってはどうか」といった意見がありました。それが成立する会議もあると思いますが、今回はできるだけハードルを下げることを考えました。初回の会議では入室に苦労する人も多数いましたが、みんなで協力して乗り越えたプロセスがあります。

気候市民会議の効果的な企画運営に必要な組織・体制とは?

―実行委員会には大学の関係者が全国から参加していますが、札幌市の方々や久保田さん、有坂さんがいたことにより、単に会議が会議として進むだけでなく、実際の現場の状況と密接に結びついたところが、有機的で非常に面白かったと思います。会議を札幌で定着させたり、結果をいろいろなところに反映させたりするためにはどうすればよいのでしょうか。

有坂:今回の会議が成功した背景には、札幌市の協力があったと思います。会議の構想段階で実行委員会の方からお話を頂き、同じタイミングで札幌市の佐竹さんや山西さんに相談させていただきました。初期のアイデアベースの段階から相談ができたのは、普段からの関係性もありますし、今回は札幌市で気候変動対策行動計画を策定するタイミングでもあったので、会議の結果を計画にも生かしてもらえることになりました。そういったタイミングでなくても、日頃どれだけ密接にやりとりできているのかが重要であると改めて実感しました。また、ワークショップを実施するにあたって、ファシリテーターの方に気軽に頼めること、初めてのオンライン開催という未知の世界に一緒に飛び込んでもらえること。そういった信頼関係を地域でどれだけつくることができているのかが重要だと思いました。

久保田:気候変動は地域の問題だけではなく、地球環境の問題としてイメージを持たれることが多いですが、今回は札幌市の対策を考えることが直接のテーマでした。その地域性は地域によって事情が異なると思うので、地域の全体像が見える人たちがいろいろな分野から集まって設計をすることが必要だと思います。今回それに近いやり方ができてたのではないでしょうか。そのようなステークホルダー同士の関係性がなければ、今回のような会議は実現しなかったと思います。

―札幌市さんからは会議の運営プロセスはどのように見えていたのでしょうか。

佐竹:会議の構想段階からお声掛けいただき、元々有坂さんと久保田さんとは10年以上もお付き合いがあり、普段からコミュニケーションを取っているので、連携しやすい関係にありました。また、札幌市としても市民との対話の場を大事にしており、2019年度からは「みんなの気候変動SDGsゼミ・ワークショップ」という連続講座を開催しています。今年度は全12回オンラインで開催し、誰でも参加できるかたちをとりました。そういった経験から、このようなオンラインでの開催や対話の場をつくることは、抵抗なくできたと思っています。

―会議自体は成功したとして、ではその結果、何が変わるのか。どのように政策に生かしていくのか。まだ見えにくいところもあると思います。そのあたりはいかがでしょうか。

佐竹:会議結果を生かすという点では、札幌市の気候変動対策行動計画に反映させること、もう一つは、みんなが取り組むべきと言っている項目と意見がばらついた項目を政策の中で反映させていく必要があると思っています。省エネ住宅については、推進してほしいという結果が出ているので情報提供は必要ですが、そこはどんどん進めていけると思います。一方で、再生可能エネルギーや交通、特に自動車に関しては意見が割れていたので、そこは市民の感度を踏まえて政策を組んでいきたいと思います。

他地域や全国規模での活用の可能性は?

―今回は札幌市という枠の中で、計画策定におけるパブリックコメントの流れに合わせて開催しましたが、この結果は札幌だけにしか反映できないものなのか、これを点と点で結んでいくと、少なくともナショナルなレベルまで持っていけるものなのでしょうか。もしくは、国の政策に直接生かしていくためには別の枠組みが必要なのか、どういった展開の可能性が考えられるでしょうか。

田村:今回札幌市で行われた取り組みは、他の自治体が公式・非公式に参照すると思います。そう考えると、今回の結果に関して、札幌市がしっかりと情報発信・公開していただければ、他の自治体、場合によってはナショナルなレベルで、政府も参照するのではないでしょうか。自治体間や政府間での相互参照が生まれる可能性はあります。市民会議と札幌市の関係については、市民会議自体の中で大きな意見変容が起こらなくても、札幌市(行政だけでなく政治も含めて)の方に何らかの変化が起これば、それはある種の熟議、大きな意味での意見変容と見ることができると思います。

神田:今回の結果を生かしてすぐにできることと、長い時間がかかるものがあると感じました。例えば交通機関に関して、バスの路線を増やすことは比較的容易にできるかもしれませんが、地下鉄の場合、時間もかかり、実現が難しい部分はあるかもしれません。田村先生もご指摘のように、この結果を受けて変わったことが具体的に見えると、市民も参加した後に自ら実践しなければと思うはずです。行政にはすぐにできることと、そうでないことの整理を期待しています。
また、今回は専門家の方のレクチャーがウェブ上のアーカイブで視聴できる点は大きいと思います。これはオンラインだからこそ可能なことだと思うので、実行委員や札幌市の方にはぜひ広報をしていただきたいと思います。

―ウェブ上でのアーカイブ公開は実行委員会で考えたことでもありましたが、札幌市からの強いご要望もありました。限られた参加者だけで共有するのではなく、教育という意味では非常に使えるものなので、素材は残していきたいと思います。

有坂:くじ引きという手法について、普段はそのテーマにあまり関心がない人が参加できるメリットがある一方、意見を主張したい人たちの場にはなっていない部分もあります。そのことを踏まえ、いろいろな参加の手法が同時に実行されることが重要だと思います。民主的な社会の意思決定において、マイノリティの方の意見を社会に反映させるためには、その問題に関心のある人たちの議論も重要になると思います。個人的に関心のあること、組織だからこそ言いたいことなど、一人の中でもいろいろな立場があり、その立場によって言えることも違います。いろいろな方法で意見を吸い上げ、それを社会で生かしていく必要性を改めて感じています。

―今の有坂さんの意見を伺って、翻って今回の報告書の中で示された声とは、一体誰のことなのか、そのことを記述する必要があると感じました。今回の声は、母集団である札幌市民のすべてを反映しているわけではありません。でもその声は、今回のような取り組みをしなければ拾えなかった声であることも事実です。強い関心があり、つねに発言する人の声は、パブリックコメントや何らかのルートで入っていくでしょうし、組織の声も入っていく経路はあると思います。一方で、今回の会議は、気候変動について日頃全く関心がないわけではないけれども、そこまで考えていない人たちの声を、少なくとも言葉にするための装置でした。先ほど、札幌市の計画にもしっかり反映されるようにという話をしましたが、それも本当は危険な部分があります。どういった正統性をもって、その意見を反映させるのかは議論が必要です。この点について、田村さんはいかがお考えでしょうか。

田村:抽選という手法自体が、札幌市というエリアの中で、誰もが等しく参加できるという意味での正統性があると言えます。ただし、みんながそのことを認識していないと、「一部の人でやっただけ」と思われるのも事実で、それなりに意識がある人の声を届ける場所、あるいは意識のある人の声と抽選で選ばれた市民会議のつながりをどうつくるかを考えなければいけません。吉野川や、新潟県巻町(現在は新潟市に合併)などの例として、河口堰や原子力発電所を建設するときの住民投票の仕組みがあります。それは、まず住民投票を求める運動があり、その後に行われる住民投票自体は立場的にはフラットで行われています。つまり、下からの声があってその上に制度的にフラットな住民投票という制度が乗っかるというかたちです。そのような、下からの市民会議を求めるような人の声をうまく集約した上で、市民会議が開かれるルートがつくられると、抽選で選ばれた人と関心がある人の組み合わせが実現するのではないでしょうか。

気候市民会議さっぽろ2020が示した多様な可能性

―時間も差し迫ってきました。最後に皆さんから一言ずついただきたいと思います。

佐竹:会議の結果を政策にどう反映するのかを考えることはもちろん重要なのですが、それと同時に、対話の手法としてのオンラインや、参加者を無作為抽出で選ぶこと自体に意義があったのではないでしょうか。先ほど少しご紹介した「みんなの気候変動SDGsゼミ・ワークショップ」は自由参加なので、関心の高い方が集まってきます。そういった方々は気候変動やSDGsに関してなかなか対話をする機会がなく、例えば学校でその話をすると「意識が高い人」と言われかねないような状況です。ただ、そのような対話の場が開かれていれば、いろいろな人と対等に話ができます。そういった場も必要です、今回のような無作為抽出の場も必要です。有坂さんが指摘されたように多様な対話の場が必要で、無作為抽出で選んだ方と感度が高い方が一緒に議論するのはなかなか難しい部分もあると思います。両者のバランスを考えた場の設計の仕方をこれからも考えていきたいと思います。

久保田:先ほどの田村先生のコメントにもつながりますが、もっといろいろな方法で市民参加が実現できればよいと思います。現在はパブリックコメントや審議会には、公募で手を挙げれば市民の方は参加できます。あるいは市民説明会のような場もありますが、それで足りているとは思えません。一つの可能性として、今回の市民会議のようなものがもっと活用されることで、いい影響が期待できると思います。また、重要なのはこの会議を誰が主催するのかということです。今回は研究者の方が中心となりましたが、ヨーロッパでは議会や連邦政府レベルで開かれているので、やはり政策主体としての札幌市が主催できるとよいと思います。そうすれば、設計段階からそこで出された意見をどう反映するのか、あらかじめ議論されていくでしょうし、出された意見に対して市長が正面からそれを受け止めることもできます。

有坂:気候市民会議自体は、実行委員会の研究者の方々が中心となって企画・運営されて、研究の一環という色が強く出たと思います。一方で、私たち自身は、研究の一環というよりも実践として取り組んでいます。実行委員会のみなさんも、そういった気持ちでやってくださっていると思いますが、はたから見ると、そうは見えない部分もあります。こういった場をどう設計し、誰がやるのかといった議論をする場合、その部分においても民主的な意思決定を標榜するのであれば、会議をつくる仕組み自体にも民主的なかたちが見えるとすごくいいと思います。今回はたくさんのメディアの方に報道していただきましたが、その中身を見ると、「研究者の人たちが」「札幌市が」という言い方がされていました。実際にはいろいろな方々のパートナーシップがあったからこそできたことだと思います。そのことも踏まえ、今後はいろいろな人が関わっていろいろな人の声を聞くことの重要性を対外的にも分かりやすい形で示すことをもう少し追求してきたいと思っています。

神田:気候市民会議は市民側からすれば、少しハードルが高いものだと思います。今回3,000人に案内を送り48人から回答が来たということですが、いろいろな制約があったとはいえ、やはり少ないという印象があります。まず、市民会議を本当に意義あるものにするためには、そのための普段からの土壌づくりが必要ではないかと思っています。先ほど佐竹さんからもお話がありましたが、気候変動や温暖化が危機的な状況にあることを、普段から知ってもらうイベントや連続講座があってこそ、気候市民会議が意義あるものになると思います。おそらく、会議の案内をもらったときに、「私は普段、気候変動のことはほとんど考えていない」という人が大多数であれば、参加するのはなかなか難しいと思います。普段から考えるきっかけをつくってもらうために、例えばコロナが収束したときには、屋外やショッピングセンターのイベント等も考えられるかもしれません。そういったことを通じて市民会議に参加するための土壌を築ければよいと思います。今回は第一歩だと思いますので、今後の発展に期待したいです。

市民に寄り添い、ともに考え、行動するためには

―ここで第3部のディスカッションを受けて、RCE北海道道央圏協議会副会長で、気候市民会議のアドバイザー会議で座長も務めていただいた北海道大学大学院教授の山中康裕さんからコメントを頂きます。

山中:今回、アドバイザー会議の座長を務めさせていただき、実行委員会にも数多く参加させていただく中で、第三者的かつ批判的な目でいろいろな助言をしてきました。
まず、気候市民会議さっぽろ2020には「①日本で実際に気候市民会議を開いてみる」「②得られた会議結果を札幌での取り組みに生かす」「③オンラインによる熟議の方法を開発する」という3つの目的がありました。このうち、①と③に関しては、非常にうまくいったのではないかと思います。これからオンラインで市民会議を行う際には必ず通過する過程を、丁寧に検討・実施をして報告書にまとめていただきました。市民会議をするならば、必ず引用しなければならない論文になると思います。
一方で、②に関して、最終報告書にある「主な結果の分析をまとめた『報告書 速報版』を公表し、実行委員会から札幌市に正式届けることができました」(107頁)の「正式」とは何を指すのでしょうか。今まであれば、札幌市の環境保全協議会から環境審議会、パブリックコメントという手続きの流れがありましたが、これと同じレベルで捉えるのは危険ではないでしょうか。今回の会議が計画策定の時期と重なり、「タイムリー」であったと言うならば、計画書の中で具体的に変更された箇所はあるのか、逆に変更箇所があるなら、札幌はなぜ変更したのかを説明する必要があります。もちろん既存の審議会やパブリックコメントも、決して完璧な制度ではなく、検討すべき課題が多々あるので、新しいかたちをつくったことはすごく意義のあることだと思います。
また、会議の参加者が札幌市の市民を代表しているのかに関して、定量的なものよりも、一人一人が何を考えたかを質的データとして見るべきであり、宝の山はそれらの発言の中にあると思います。そのことを踏まえ、回収率や参加者が20人という少数であったことや、参考人の影響などについて考察した論文を発表してほしいと思っています。ただ、その前に「札幌市の政策に生かすことができました」と言ってしまうのは、研究倫理的に少し違和感を持ちます。もちろん研究と政策決定の現場の差は埋めなければいけないと思います。例えば、「タイムリー」ということに関して、臨床医学と基礎医学のあいだの問題として、「患者が目の前で困っているのに基礎研究をするのか。やっぱり今すぐに何かをしないといけないでしょう」ということがあります。おそらく、これが三上先生や実行委員の方のイメージとしてあり、目的の「②得られた会議結果を札幌での取り組みに生かす」が出てきていると思います。アクションリサーチやIPCCがどれだけ政策決定者に影響を与えるのか。まさにこれはみんなが悩むことです。
また、どうしても忘れてはならないのが、企業や関係団体の存在です。法人も税制や政治的な人格を持っており、本当に世の中を変えたいのならば、そういったところにアプローチする必要があります。また、いろいろな事業を進めるとき、最初に取り組むべきなのが「体験共有型ワークショップ」です。札幌市の取り組みでは、なぜそれが実現できたかというと、佐竹さんが説明されたように、日頃からの付き合いや信頼があるからです。今回の市民会議は、その体験・共有の延長線上にある「ロードマッピングワークショップ」になったのではないでしょうか。それは、気候変動対策といった具体的なテーマをもとに議論を展開しますが、それは参加者同士の体験・共有が十分に成された上で、はじめてうまくいくものです。第1部の中で池辺先生が「意見変容を伴う熟議ではなかった」と言われた背景には、このような要因があったと思います。これは、気候変動対策をいかにして市民に分かりやすく伝えることができるか、という科学技術社会論(STS)的アプローチが影響しているのではないかと思います。本当は、市民が様々な課題に対して何を優先したいのかを出発点にした別のアプローチがよかったのかもしれません。
また、参加者の方の意見に基づいたビジョンに関して、第3グループとして、支持が弱くて意見の散らばりが大きいものが示されたことはよかったのですが、それを追求するときには今回の会議の方法がよいのかどうかは必ずしも分かりません。
少し辛口のコメントをさせていただきましたが、非常に参考になる取り組みだと思います。前例ができたので、行政や市民も動きやすくなります。私としては気候変動対策が、少子高齢化・景気対策等にかき消されてしまうのを防ぎたいという思いがあります。SDGsの目標間に期待される相乗効果のように、多くの課題を一緒に考え、行動していきましょう。


※IPCC:気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)。1988年に世界気象機関(WHO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された組織で、195の国と地域が参加している。気候変動に関する最新の科学的知見(出版された文献)についてとりまとめた報告書を作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的としている。

 

PART1 第2部 ディスカッション1「気候市民会議さっぽろ」結果の読み解き方・生かし方